第5回 - 集合と場合の数
概要
集合と場合の数は、確率や統計学を学ぶ前提となる基礎である。
統計学では、観測される出来事を事象として扱い、その起こり方を数量的に考える。
その時、事象を正確に表すための言語が集合であり、起こり得る結果の個数を数える技術が場合の数である。
例えば、サイコロを1回振る試行では、出る目の全体を集合として表すことができる。
また、偶数が出る事象や3以上の目が出る事象も、それぞれ集合として記述できる。
このように、確率で扱う事象は集合で表現できるため、集合の考え方を理解することが重要である。
場合の数は、ある条件を満たす結果が何通りあるかを求める考え方である。
確率は、同様に確からしい場合において、目的の事象に含まれる場合の数を全体の場合の数で割ることで求められる。
そのため、場合の数の計算を誤ると、確率や統計的な判断も誤ることになる。
集合と場合の数は、単なる計算技術ではなく、起こり得る結果を整理し、数え上げ、論理的に判断するための道具である。
本ページでは、まず集合の定義、要素、部分集合、共通部分、和集合、補集合等の基本事項を整理する。
続いて、集合の要素数の考え方を用いて、和集合の要素数やド・モルガンの法則を学習する。
さらに、事象と集合の関係を確認し、場合の数を集合の個数として理解する。
後半では、和の法則と積の法則を導入し、順列と組合せの違いを明確にする。
順列では順序を区別し、組合せでは順序を区別しないことが本質である。
この区別は、確率、離散型確率分布、ベイズの定理等を正しく理解するための基礎になる。
集合の定義
集合とは、ある条件を満たすものを集めたものである。
集合を構成する1つ1つのものを要素または元という。
集合の表し方には、大きく分けて2通りある。
- 外延的記法
- 要素を1つずつ並べて集合を表す方法である。
- 内包的記法
- 要素が満たす条件を用いて集合を表す方法である。
例えば、25以下の5で割り切れる自然数の集合 は、次のように表せる。
または
前者は要素を列挙しており、後者は条件で集合を定義している。
問題に応じて、分かりやすい表し方を選ぶことが重要である。
要素数と集合の種類
集合には、要素の個数に応じていくつかの種類がある。
| 種類 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 有限集合 | 要素の個数が有限である集合 | |
| 無限集合 | 要素の個数が無限である集合 | |
| 空集合 | 要素を1個も持たない集合 |
集合 の要素数は、 で表す。
例えば、 であれば、 である。
空集合の要素数は である。
要素数の記法は、後に場合の数を式で表す時にそのまま用いる。
したがって、集合の要素数を数量として扱う感覚を早い段階で身につけることが重要である。
部分集合
集合 のすべての要素が集合 に含まれている時、 は の部分集合であるという。
部分集合に関する記号は次の通りである。
-
- 2つの集合が全く同じ要素を持つことを表す。
-
- が の部分集合であり、 の場合も含む。
-
- が の部分集合であり、しかも である。
- この時、 を の真部分集合という。
部分集合では、等しい場合を含むかどうかが重要である。
問題文に応じて、 と を区別して使う必要がある。
共通部分と和集合
2つの集合 と に対して、両方に共通して含まれる要素全体の集合を共通部分という。
共通部分は と表す。
一方、 または の少なくとも一方に含まれる要素全体の集合を和集合という。
和集合は と表す。
ここでの「または」は、どちらか一方だけでなく、両方に属する場合も含む。
例えば、あるクラスの中で、英語が好きな生徒の集合を 、数学が好きな生徒の集合を とすると、
は「英語も数学も好きな生徒」の集合であり、
は「英語または数学の少なくとも一方が好きな生徒」の集合である。


和集合の要素数
和集合の要素数は、単純に とすると重複を二重に数える場合がある。
そのため、次の公式を用いる。

この式では、 と に共通する部分を1回引くことで、重複を調整している。
例えば、、、 の時、
となる。
共通部分がない場合
もし と が共通部分を持たないなら、 である。
この時、公式は次のように簡単になる。

これは、場合の数における和の法則の基本形にも対応している。
全体集合と補集合
考える対象全体の集合を全体集合といい、通常は で表す。
全体集合 の中で、集合 に属さない要素全体の集合を の補集合という。
ここでは、補集合を と表す。
全体集合と補集合の関係は、次のように表せる。
したがって、要素数について次式が成り立つ。


補集合の考え方は、確率で余事象を用いる時にも重要である。
直接数えにくい場合でも、全体から引くことで簡潔に求められる場合がある。
ド・モルガンの法則
補集合、共通部分、和集合の間には、重要な関係がある。
これをド・モルガンの法則という。


(1)式は、「 と の両方に属すること」の否定が、「 に属さない、または に属さない」という条件に言い換えられることを意味する。
(2)式は、「 または に属すること」の否定が、「 にも属さず、 にも属さない」という条件に言い換えられることを意味する。
この法則は、論理式の変形や確率の補集合計算でも頻繁に用いられる。
事象と集合
確率では、繰り返し行える行為を"試行" という。
試行の結果として起こる事柄を"事象" という。
例えば、コイントスでは全体集合を次のように表せる。
サイコロを1回振る試行では、全体集合は次のようになる。
この時、偶数の目が出る事象 は、 と表せる。
このように、事象は集合として表現できる。
したがって、事象の個数や関係を考えるには、集合の考え方がそのまま使える。
場合の数の基本法則
場合の数を求める時には、和の法則と積の法則が基本となる。
和の法則
互いに重ならない複数の場合のうち、どれか1つが起こる場合の総数は、それぞれの場合の数を足して求める。
例えば、1枚のカードがハートである場合の数が13通り、スペードである場合の数が13通りである時、
「ハートまたはスペード」である場合の数は 通りである。
これは、共通部分がない和集合の要素数と同じ考え方である。
積の法則
1段階目と2段階目のように、順に選択を行う場合、各段階の選び方の数を掛けて全体の場合の数を求める。
例えば、3種類のシャツと4種類のズボンから1つずつ選ぶ時、組合せは 通りである。
積の法則は、順列や組合せの公式を導く時の基礎になる。
順列
順列とは、異なるものの中からいくつかを選び、順序を区別して並べる方法の総数 である。
階乗
個の異なるものを1列に並べる並べ方の総数は、 と表す。
例えば、3人を1列に並べる方法は、 通りである。
順列の公式
個の異なるものから、重複を許さずに 個を選んで並べる順列の数は、次式で表される。
これは、1番目に置くものの選び方が 通り、2番目が 通り、という積の法則から導かれる。
例えば、5人の中から3人を選んで会長、副会長、書記に割り当てる方法は、 通りである。
組合せ
組合せとは、異なるものの中からいくつかを選ぶが、順序は区別しない場合の総数である。
順列との違いは、同じ要素の集まりで順序だけが異なるものを同一とみなす点にある。
個の異なるものから重複を許さずに 個を選ぶ組合せの数は、次式で表される。
また、順列との関係は次のように表せる。
これは、同じ 個の選び方1通りに対して、それらの並べ方が 通り存在するためである。
例えば、5人の中から委員を3人選ぶ方法は、 通りである。
順列と組合せの違い
| 項目 | 順列 | 組合せ |
|---|---|---|
| 順序 | 区別する | 区別しない |
| 典型例 | 役職の割当、席順、暗証番号 | 委員の選出、カードの選択、班分け |
| 公式 |
問題を解く時は、まず順序を区別するかどうかを判断することが最も重要である。
ここを誤ると、解答が大きく変わってしまう。
具体例
例 1: 事象を集合で表す
サイコロを1回振る時、「3以上の目が出る」事象 を集合で表すと、 となる。
この時、 である。
例 2: 順列を用いる場合
6冊の異なる本の中から3冊を選んで横1列に並べる方法は、 通りである。
本を置く順番が変われば別の並べ方になるため、順列を用いる。
例 3: 組合せを用いる場合
6人の中から発表者を3人選ぶ方法は、 通りである。
この場合は、誰を選ぶかだけが重要であり、選ぶ順番には意味がないため組合せを用いる。
例 4: 統計学へのつながり
確率では、事象に含まれる場合の数を全体の場合の数で除算して、確率を求めることが多い。
例えば、サイコロで偶数が出る確率は、 と求められる。
このように、集合と場合の数は確率計算の土台となっている。
関連情報
- 第1回 - イントロダクション
- 第2回 - 1変数の記述統計
- 第3回 - 2変数間の相関
- 第4回 - 2変数の回帰分析
- 第6回 - 確率の基礎
- 第7回 - ベイズの定理
- 第8回 - 離散型確率分布
- 第9回 - 連続型確率分布
- 第10回 - 2変数の確率分布
- 第11回 - 正規分布
- 第12回 - 様々な確率分布
- 第13回 - 推定
- 第14回 - 検定
- 第15回 - 適合度検定
- 第16回 - モーメント母関数
- 統計学 - 二項分布
- 統計学 - 連続型確率分布